今夜はお寿司

今夜はお寿司。ふつう、これを聞くと、ウレシーとなるでしょう。爺の家ではめったに口はおろか、耳にも音声信号として届くことはなく、どこぞの話でありました。それが、岡山からの帰り、車の中で奥様から「今夜はお寿司」と仰せあるのです。それで、お汁を作るので豆腐を買って帰ります、とのこと。爺は、県道沿いのスーパーの駐車スペースにて待っておりました。和風のしつらえで、日本酒で燗でもして、と妄想がふくらみます。ええ、自分で燗をすることにはなるのですけどね…。

奥様が改めて車に乗り込みます。レジ袋を見ると、本当に豆腐だけのようです。寿司はどうしたのだろう…と爺は一瞬思ったのですが、スーパーの寿司ではなく、しっかり豪勢なお寿司を調達するのであろうと、内心ホクホクしておりました～。天にものぼる気持ちとは、こういう状態のことをさすのだと、えらく久しぶりの「お寿司」に心はウキウキ、運転軽々でありました。ますます、夕食の図が頭の中で豊かに広がります。もわ～っ…。

ですが、途中でお寿司を買い求める様子無く、駐車場到着。空模様もなにやら雪雲のようで、寒さが沁みてまいりました。まあ、奥様がおっしゃったことに間違いはありますまい。40年近くともに苦労を分かち合い、励ましあってきた仲です。

駐車場から自宅までの帰り道、寿司の調達についてお尋ねすると、昨夜、父親に供したお稲荷さんがある、とのご回答でした。冷蔵庫のなかで干からびてもいけないし、もったいないのでね…。ガーン。

ええ、稲荷ずしも、そりゃあ立派なお寿司です。昨日のお寿司もお寿司に変わりはありませぬ。よくよくお尋ねすると、インスタントのお汁に豆腐を入れ、お稲荷さんをつついて、早目に寝るのが良さそうだ…と。どのような理由によってそのような結論に至ったのか、情報が錯そうしているため、説明がつかない状況です。理由を見つけるより、冷蔵庫からお稲荷さんを出して皿にきれいに並べたほうが、良さそうでは、との声が…。シクシク。